「たとえば、・・・」ということ

現象を観察して一般的な帰結を説明するときや、論理的に結論づけられる一般的なルールをわかりやすく説明するときには、一般論を述べた後で、「たとえば、・・・」という表現を用いることがよくあります。とくに教科書など、説明を補強するときによく使います。また、専門的なことを一般の方々に説明するときにも使うことがあります。

しかし、この「たとえば、・・・」も結構難しいところがあります。まず、第一に、そこで述べることが、本当に、一般的なものの例になっているかどうかということがあります。正しくない「事実(?)」を例えにあげるのは論外ですが、そうでなくても、うっかりすると、読み手が納得してしまうようなこともあります。その事実を確認する手間が大変な場合には、その例が一人歩きしかねません。

先日、行政における電子申請の実態に触れた文書を共同で用意していたときに、利用度の低いシステムの事例として「○○電子申請システム」を示したところがありました。文脈からは、それはそれで(そのようなシステムが実現されていたとすれば)納得できるものでした。しかし、そのようなシステムはどうやら実現された形跡がないのです。うっかりしていましたが、チェックの段階で気づいて事なきを得ました。冷や汗ものでした。

40年以上前の学生の頃に教わったことを思い出します。数値積分法にシンプソン則 (Simpson則) というものがあります。積分区間を等間隔hで区切った点の関数値で定積分の値を近似しようとするものです。当然、誤差が出ますが、その誤差がhの3乗に比例することは解析的に求められます。教わったのは、その計算法を「たとえば、・・・に適用してみると」という実例です。

計算の誤差を見るのですから、真の値が簡単に計算できる例が必要だということは分かります。もちろん、本当にシンプソン則を使うときには、解析的に真の値が得られないからこそ近似するわけですが、ここでは計算法の理解と誤差の見積りを学ぶところですから、代表的な被積分関数を適当な区間で積分したものが例になるでしょう。当時、教わったのは、1/(1+x*x) を区間 [0, 1.2] で積分するものでした。この被積分関数の不定積分は arctan(x) ですから、区間 [a, b] で積分した真の解は arctan(b)-arctan(a)として求められます。とくに、a=0, b=1 ならば 45° の角ですから π/4 として筆算で求めることもできます。では、なぜ、この例では b=1 ではなく b=1.2 だったのでしょうか。講義ではその種明かしもされました。

シンプソン則の誤差は、細分区間幅hの3乗に比例するのですが、その係数は被積分関数f(x)の3次導関数によって表される(f”’(b)-f”’(a))に比例するということが分かります。ところが、ここで扱っている例では、f”'(1)=0,  f”'(0)=0 となって、b=1の場合にはhの3乗の係数は0になってしまいます。もちろん、これは誤差が0というわけではなく、実はhの5乗に比例するという特異な場合になっているのです。そこで、講義で教わったのは、一般的な場合の b=1.2 だったというわけです。ここまでの種明かしがあったからこそ今も憶えているのかも知れません。

当時、別の教科書で、その本質に気づかずに b=1 の例をあげてあるものがあったので、「見かけで信用してはいけない」「まねをしても馬脚を現す」ということも教わったのです。同時に、「たとえば、・・・」の怖さも知りました。大昔のことではありますが、印象に残っています。

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